- 堀田圭江子/音楽療法セラピスト®、音楽療法士、産業カウンセラー
- 洗足学園音楽大学 声楽家卒業。高校教員を経て音楽療法士となる。
25年以上の音楽療法の臨床経験を生かし「音楽療法セラピスト®養成講座」を主宰。
音楽療法セラピストを志す後進の育成にもあたっている。
「音楽療法に感動がある理由」というお話しです。
ある高齢者施設でのセッションでの出来事をお話します。
先日
84歳の脳卒中の後遺症で失語症となり
言葉がうまく出ない男性との個人セッションをしました。
そのセッションは
個人セッションなので
担当はセラピストの私と
施設職員の方の2人で実施しています。
さて
そのクライアントさんですが、
ここ数ヶ月気温の上昇もあり食欲が落ちてしまい、
食事の時間以外はほとんどベッドに寝ており
会話もなく活気がまるでない状態でした。
今回の音楽療法での治療目標は
そんな状態なので今回のセッションでは、
まずは
セッションは
目を閉じたままのクライアントさんに
「お名前をおっしゃってください」
「目を開けてみましょう」
と声をかけるところから始まりましたが、
一向に開く気配がありませんでした。
私も職員さんも
「やっぱり、ダメかも」と心の片隅で思っていました。
しかし
ダメ元で、太鼓を叩くプログラムをしようと
ばちをクライアントさんの手に持って行きました。
でも
手に力が入らないのか、ばちを握りません。
次に
「○○さん、太鼓しましょう。ばちを持ってくださいね。」と
声をかけながらやってみました。
やはりだめです。
「じゃあ、最初に職員さんにやってもらうので、
○○さんも叩きたくなったら叩いてください。」といい、
職員さんに他のばちを渡し太鼓を差し出し、
トントンと私が2回ほど叩いた時です。
クライアントさんに起きた変化
私はすかさず
太鼓をクライアントさんに持っていき
「私と同じリズムを叩いてくださいね。いきますよー。」と
言って太鼓を叩きました。
それを待っていたかのように
クライアントさんは同じリズムを叩きました。
やった!
私たちは顔を見合わせ何度もうなづきました。
そして
次の歌詞を読むプログラムでも
そのクライアントさんは
私は心の中で
「すごいすごい」と連呼していました。
その後の
ミィーティングで職員さんは、
「先生、○○さんの声数ヶ月ぶりに聞きました。
太鼓もやってましたねー。本当によかったです。
なんか私、うるっときました。」
とおっしゃっていました。
私も
「本当によかったね。実は私もうるっときてたんです。」
と一緒に喜びました。
なぜクライアントさんに変化が起きたのか
というように
そんな時は
本当に音楽療法をやっていてよかったなあと
思う瞬間です。
しかし
その場面は偶発的に起こるのではなく、
治療目標のもとに考えられたプログラムを提供するからこそなのです。
「このクライアントさんには、今、何が必要か」
これが治療目標です。
とはいえ
音楽療法の基礎知識は
「音楽療法概論」の講座で学ぶことができます。
専門書や雑誌を読むだけではわからない
音楽療法の知識は
実際のセッションの話を通して聞くことで
よく理解できます。