- 堀田圭江子/音楽療法セラピスト®、音楽療法士、産業カウンセラー
- 洗足学園音楽大学 声楽家卒業。高校教員を経て音楽療法士となる。
25年以上の音楽療法の臨床経験を生かし「音楽療法セラピスト®養成講座」を主宰。
音楽療法セラピストを志す後進の育成にもあたっている。
「失語症の方をサポートする時の3つの注意点」についてお話しします。
私が音楽療法で訪れている高齢者施設には
認知症の方だけではなく、脳卒中の後遺症で失語症になられた方も多く参加されています。
今日は
その中の失語症のある男性のお話ししたいと思います。
その方をAさんとします。
Aさんは60代前半で脳出血を起こし、その後遺症で失語症となりました。
相手の話は理解できるけれど、
自分から発語することがほとんどありません。
そのAさんですが
初めて音楽療法に参加された時は、
ずっと下を向き、閉眼したままで私と視線さえ合わせてくれませんでした。
また
質問すると面倒臭そうに
首を振りイエス、ノーは伝えてくれますが、
太鼓のプログラムで叩くように誘っても、
顔を上げるように促しても、反応が薄く
その姿は全てのことにあきらめているかのように見えました。
「まずは意欲を出す」という治療目標を設定
そんなAさんに
私とスタッフは「まずは意欲を出す」という治療目標を設定し
セッションを重ねていきました。
そうして
1年をすぎた頃
Aさんに「お名前をどうぞおねがいします」と促しました。
そうするとどうでしょう。
口を開けて、自分の名前を言おうとしたのです。
その様子を見て
「じゃあ、ゆっくり言ってみましょう。◯ー◯ー◯ー◯ーう」と
私は一緒に発音しました。
なんと
苗字を言うことができたのです。
「ああ、とうとう声をだすことができた。よかったー。」
と私は心の中で喜びました。
それからは
名前は毎回フルネームでいうようになり、
歌も一部分だけですが歌ったり
セッション中、最後まで顔をあげて参加したりと
徐々に積極性が出てきました。
そしてその変化に
居室担当の職員さんも喜んでいました。
と話されていたほどです。
音楽療法で失語症の方をサポートする時の3つの注意点
では
音楽療法ではどんなことに注意して
Aさんとセッションしていったかを
3つのポイントにしぼりご紹介します。
1、チャンスを提供し気長に待つ
例えば、
名前を言える、言えないに関わらず
「名前をお願いします」と毎回促します。
そして
2、おせっかいしないで確認する
クライアントさんはなかなか話し出せないため、
「◯◯なのよね」とか「◯◯でしょ」などと
クライアントさんの気持ちを代弁してあげたくなりますが
そこはグッと我慢します。
そして
「◯◯さんは、◯◯のように思ってますか?」
「私は◯◯さんの気持ちを、◯◯のように感じたんだけど、合っていますか?」
などのように
3、正当評価する
太鼓のプログラムでは、セラピストがリズムの提示をします。
そのリズムと同じものをクライアントさんに叩いてもらうのですが
同じリズムができたら、「正解です」「できました」などとほめます。
そして
同じリズムが叩けなかった場合は、「おしいですね」「もう一度挑戦しましょう」
などと提示した課題に対しての評価を伝えます。
ここで大切なことは
クライアントさんは
この3つに注意しながら
音楽療法を実施していったことで
Aさんは意欲を取り戻し、発語が出るようになっていかれました。
もし
あなたが失語症の方と接する機会があったり
ご家族に失語症の方がいらっしゃる場合、
上記の3つのポイントを参考にしていただければと思います。
さらに
失語症の方を音楽療法や音楽レクで
元気にしたい・サポートしたいと思われる場合は
もう少し詳しい知識やサポートのコツが必要だと思います。
そんな方には
「脳血管性障害の音楽療法」がおすすめです。
失語症についての正しい知識や
クライアントさんがどのような心理状態になっているか
正確に理解できる内容になっています。
正しい理解と適切なサポートで
失語症の方も援助者も気分良く接することができます。
「脳血管性障害の音楽療法」に参加された受講生の感想も参考にお読みください。
※Tさん 女性(52才)その他
音楽知識があまりないため、ついていけるか不安でしたが、
初めての講座、ありがとうございました。
今後、どうして行くかは模索中ですが、先生のお人柄や授業の進め方等、
とても有意義でした。時間をかけてやっていきたいと思っています。
※Yさん 女性(59才)介護職
高齢者との違いがどのようなところにあるのか知りたいと思い参加しました。
今まで知っているようでぼんやりとしか分かっていなかったこと実感しました。
失語症ひとつでも3つの異なった疾患があるんですね!
仕事しながら、自分のペースで勉強できています。
みなさんのお話もいろいろ聞けて勉強になりました。
※Sさん 女性(53才)専業主婦
実習先で、なかなか発語できない方がおり、
その方へのアプローチを模索中。
また脳梗塞で倒れて、片麻痺の知人がおり、
その方の落ち込みや後ろ向きな気持ちにどのように寄り添えばいいか知りたかった。
まず、認知症との違いを認識すること、
脳血管性障害の方の特徴を知ることが第一歩だと思った。
今日、はじめの一歩は踏み出せたと思う。
さらに具体的なサポート・プログラムについては
講座の中だけではまだまだわからないので、
実習の中でこれからも学んでいきたいと思う。
またこの講座は、自分のペースに合わせて、臨機応変に受講できます。
ありがとうございました。
音楽療法セラピスト養成講座は、
どの講座からスタートされても大丈夫です。
音楽の専門知識や、特別な準備は必要ありません。
10名の少人数制ですのでリラックスして参加でき、
知りたいことや聞きたいこともその場で質問可能なので、
より理解が深まります。
では今日も1日はりきってまいりましょう!
音楽療法セラピスト 堀田圭江子