- 堀田圭江子/音楽療法セラピスト®、音楽療法士、産業カウンセラー
- 洗足学園音楽大学 声楽家卒業。高校教員を経て音楽療法士となる。
25年以上の音楽療法の臨床経験を生かし「音楽療法セラピスト®養成講座」を主宰。
音楽療法セラピストを志す後進の育成にもあたっている。
保育園や放課後等デイサービス、児童発達支援センターには様々なタイプの子どもが通ってきていると思います。
そこでは子どもたちの成長や発達を促すために様々な活動が行われています。
その中でも
音楽を使った活動では子どもたちが楽しそうにしていたり、表情が変わったり、集中していたりする姿を多く見ることができるのではないでしょうか。
このように音楽には子どもの反応を引き出したり行動の変化を導く働きがあります。
この音楽の持つ働きを活用し子どもの成長や発達を促すのが音楽療法なのです。
ここではまず
音楽療法で子どもの発達を促すために必要な3つのポイントをご紹介します。
そして
子どもの特徴に合わせた具体的な音楽療法のプログラムも3つお話しします。
1、おさえておきたい3つのポイント
音楽療法で子どもの発達を促すために必要な3つのポイントをご紹介します。
(1)子どもの特徴を理解する
ひとつ目は、
「子どもの特徴を理解する」ことです。
音楽を使った活動は楽しく子どもの発達を促すものですが、
より効果的な活動にするためには、まず一人ひとりのお子さんの特徴を理解することが重要です。
特に発達障がいのお子さんについてはできる限り細かく特徴を知っておくことをオススメします。
音楽療法では
対象のお子さんの特徴を知っていることで、適切な個別目標が設定できるからです。
適切な個人目標があるとその子に合ったプログラムを組めます。
その子に合ったプログラムは
無理がないので活動に集中でき参加意欲を引き出すこともできるのです。
そのため
楽しみながら発達や成長を促せるというわけなのです。
例えば
以下のような特徴があるかもしれません。
「集中力が短く落ち着かない」お子さんの場合
主な特徴
- 座っていられない
- 順番を待てない
- 同じ間違いを何度もする
- 自分の欲求を貫こうとする
- おしゃべりが止まらない
- 衝動的に行動する
などがみられます。
「こだわりが強く言語コミュニケーションが難しい」お子さんの場合
主な特徴
- 急な変更ができない
- 相手の表情や言葉の裏の意味を理解しにくい
- 音や光に敏感または鈍感
- 視線があいにくい
- 同じ言葉や動作を繰り返すことがある
- 感情のこもらない発語をする
- 会話のキャッチボールが難しい
などです。
「自分の気持ちを相手に伝えにくく感情的になりがちな」お子さんの場合
主な特徴
- 抽象的な指示がわかりにくい
- 計画を立てたり優先順位をつけて行動することが苦手
- スキルや方法を身につけるのに時間がかかる
- 自分の気持ちを相手に伝えにくい
- なんでも「OK」を出す
- 言語のスムーズなコミュニケーションが難しい
- 集中力が短い
などがあります。
そして
- どのようなものにこだわりがあるか
- 自分でできることは何か
- パニックなどがあるかどうか
(あればどんな時なのか) - 言葉の理解はどの程度できるか
- 嫌いな音はあるか
- 興味関心があるものは何か
などのようにさらに理解を深めると
適切な個別目標の設定ができます。
なお発達障がいについては
「国立障害者リハビリテーションセンター」が運営しているサイトを参考になさってください。
発達障害に関して、当事者、ご家族、支援者、自治体関係者等に向けて幅広い情報提供を行っています。
(2)個別目標を設定する
二つ目のポイントは
「個別目標を設定する」ことです。
音楽療法ではひとりずつに「目標」を設定をします。
この個別目標はお子さんの発達に何が必要であるかや
どうなって欲しいかを文章化して設定します。
では
目標を設定する際に気をつけることはなんでしょうか。
それは
「具体的な目標にする」ということです。
例えば
- 意思表示(はい・いやなど)の発語を促す
- ストレスを発散する
- 活動中はイスに座る
- 運動量をアップする
などです。
このように具体的な目標設定にすることで
- 目標に沿ったプログラムが作りやすくなる
- 子どもの変化がわかりやすい
- プログラムのマンネリ化を防げる
などのメリットがあります。
また個別目標を設定する際には
お子さんの様子を観察したり、保護者の方から普段や学校の様子を伺って
情報を収集して適切な目標を設定しましょう。
(3)「力を引き出す」ということを意識する
三つ目は「力を引き出す」ことを意識する。
音楽療法には
「対象者の持つ力を引き出すことができる」という特徴があります。
そのためには
- 対象者の特徴を理解する
- 個別目標を立てる
- 適切なプログラムを組む
ということが必要だということはお話しました。
さらにもうひとつ
「子どもの力を引き出す」という意識を持つことも大切です。
子どもたちはたとえ障がいや発達に遅れがあっても
長い期間の中でできなかったことができるようになったり
できることが増えたりしていきます。
私も今までそうした例をたくさん見て
「人間には成長する力がある」ことを強く感じています。
その成長を促すためには
「子どもは成長する力を持っている」
そして
「子どもの持っている力を引き出す意識」を
持ち続けることがとても大切だと思います。
2、子どもの特徴に合わせたプログラム例
ではここからは
お子さんの特徴別に音楽療法のプログラム例を3つ紹介します。
プログラム例1
集中力が短く落ち着きがないお子さんの場合
対象者 | 小学1年から6年までの5名の小集団。 |
---|---|
特徴 |
|
活動時間 | 45分間 |
個別目標 | ストレス発散、協調性を養う |
<実際のプログラム>
それぞれのプログラムごとに目的もありますので
参考にしてください。
- 1、始まりの歌
-
目的: セッションの開始と共に活動に集中する 方法: 毎回同じ曲を使う。(気持ちの切り替えの練習にもなる) 使用曲例: こんにちは(作曲:ローラ・ビーア) - 2、体操
-
目的: 自分の身体認識を強める
※身体認識とは、自分の体に対しての認識。
障がいのあるお子さんは自分の体に対しての認識が薄い場合が多く。自分の意思で自分の体を動かす意識を養うことも大切だと考えられている。方法: 手拍子をしたり、肩、お腹、太ももを曲に合わせてタッチする。 使用曲例: 線路はつづくよどこまでも(作曲:アメリカ民謡 作詞:日本語詞 佐木敏) - 3、タンバリンを叩こう
-
目的: ストレスを発散する 方法: セラピストの持つタンバリンを子どもひとりずつが叩く。その際セラピストは角度を変えてタンバリンを差し出す。 使用曲例: たいこを叩こう(作曲:イレーナユルマン) - 4、ダンス
-
目的 粗大運動で脳への快刺激をいれる
※粗大運動とは、「歩く、走る、泳ぐ、飛ぶ」などの体全体を使う全身運動です。
障がいのあるお子さんは体を大きく使うのが苦手という場合もあります。方法: 簡単な振り付けを模倣してダンス(動き)する。子どもが興味のある曲を使用して体をなるべく大きく動かす。 使用曲例: ドラえもん(作詞作曲:星野源) - 5、みんなで歌おう
-
目的: 歌詞を音読したり歌唱したりすることで集中力を養う 方法: 歌う前に歌詞を全員で音読する。そのあと、一人ずつ音読を行っても良い。
歌った後に「この曲が好きな理由」や「この曲を歌うとどんな気持ちになるか」などの質問もしてみる。使用曲例: 子どもが好きな曲や知っている曲を選曲する。 - 6、合奏
-
目的: 楽器分担をしみんなで演奏することで協調性を養う 方法: 一人ずつ演奏する楽器を分担し、合奏する。
合奏方法のオススメは、始めから終わりまで全員が演奏するのではなく
1つの楽器だけが演奏するところと全員で演奏するところを作る。使用する楽器例: 鈴、タンバリン、トライアングル、カスタネット、太鼓など 使用曲例: 大きな古時計(作曲:ワーク 作詞:日本語詞 保富康午) - 7、終わりの歌
-
目的: クールダウンする 方法: 気持ちを落ち着かせるゆっくりした曲を選曲し小さい声で歌う。 使用曲例: 今日の日はさようなら(作詞作曲:金子詔一)
プログラムのポイント
集中力が短く落ち着きがないお子さんの場合のプログラムのポイントは
「静」と「動」の2つの要素を取り入れることです。
ですので
プログラムも大きな動きをするものと動きをともなわなず落ち着いて集中するものを取り入れて組み立てましょう。
プログラム例2
こだわりが強く言語コミュニケーションが難しいお子さんの場合
対象者 | 小学1年から3年までの4名の小集団。 |
---|---|
特徴 |
|
活動時間 | 45分間 |
個別目標 | 自分以外の人を意識する。 「順番」という概念を理解する。 |
<実際のプログラム>
- 今日のプログラムを発表する
- ホワイトボードなどにプログラムを順番に書き出し
見通しを立てやすくする。
そのことで安心して参加できるようになる。
それぞれのプログラムごとに目的もありますので
参考にしてください。
- 1、始まりの歌
-
目的: セッションの開始と共に活動に集中する。 方法: 毎回同じ曲を使うことで始まりを意識できる。 使用曲例: こんにちは(作曲:ローラ・ビーア) - 2、体操
-
目的: 自分の身体認識を強める
※身体認識とは、自分の体に対しての認識。
障がいのあるお子さんは自分の体に対しての認識が薄い場合が多く。自分の意思で自分の体を動かす意識を養うことも大切だと考えられている。方法: 手拍子をしたり、肩、お腹、太ももを曲に合わせてタッチする。 使用曲例: 手をたたきましょう(作曲:不詳 作詞:不詳、補作 小林純一) - 3、大きな太鼓を叩く
-
目的: 集中力を養う 方法: 名前を呼ばれた人が太鼓を叩く 使用曲例: たいこをたたこう(作曲:イレーナ・ユルマン) - 4、トライアングルを鳴らそう
-
目的 「順番」の概念を学ぶ 方法: セラピストがトライアングルを持ち、子どもは自分の順番が周ってきたらトライアングルを鳴らす。 使用曲例: 星に願いを(作曲: Leigh Harline 作詞: 日本語詞 島村葉二) - 5、合奏
-
目的: 自分以外の人を意識する 方法: ひとりずつ楽器を分担し、合奏する。
1人で演奏する部分と2人で演奏する部分全員で演奏する部分に分ける使用曲例: おもちゃのチャチャチャ(作曲:腰部信義 作詞:野坂昭如) - 6、みんなで歌おう
-
目的: 発語を促す 方法: 音読してから全員で歌唱する 使用曲例: 子どもの好きな曲を選曲 - 7、終わりの歌
-
目的: クールダウンする 方法: 気持ちを落ち着かせるゆっくりした曲を選曲し小さい声で歌う。 使用曲例: 今日の日はさようなら(作詞作曲:金子詔一)
プログラムのポイント
こだわりの強いお子さんの場合は、視覚優位という特徴があります。
※視覚優位とは、
情報を収集する際に視覚(見て)をよく使っているということ。
その特徴を活用し目で見てわかる指示をするとよい。
なので活動の最初にプログラムを書き出して見せたり、
目で見てわかる指示の仕方を心がけると良いです。
またプログラムの流れを毎回同じようにすると、
お子さんは見通しがつけられるため落ち着いて活動に参加できます。
プログラム例3
自分の気持ちを相手に伝えにくく感情的になりがちなお子さんの場合
対象者 | 小学4年から6年までの5名の小集団。 |
---|---|
特徴 | 理解力とコミュニケーション能力が乏しいため相手に自分の考えや気持ちを伝えることが難しい。 そのため、フラストレーションを抱えやすく感情的になりがち。集中力が短い。 自分の体をうまく動かすことが苦手。 |
活動時間 | 45分間 |
個別目標 | ストレス発散、コミュニケーションスキルの向上。 |
<実際のプログラム>
それぞれのプログラムごとに目的もありますので
参考にしてください。
- 1、始まりの歌
-
目的: セッションの開始と共に活動に集中する。 方法: 毎回同じ曲を使う。 使用曲例: こんにちは(作曲:ローラ・ビーア) - 2、動作模倣
-
目的: 自分の身体認識を強める。
※身体認識とは、自分の体に対しての認識。
障がいのあるお子さんは自分の体に対しての認識が薄い場合が多く。自分の意思で自分の体を動かす意識を養うことも大切だと考えられている。方法: セラピストの動作を模倣する。 使用曲例: 大きな栗の木の下で(作詞:阪田寛夫 イギリス民謡) - 3、楽器演奏
-
目的: ストレス発散。 方法: 一人ずつタンバリンまたは太鼓を持ち、自由に叩く。 使用曲例: ミッキーマウス・マーチ(日本語詞:漣健児 作曲:Jimmie Dodd) - 4、リズム模倣
-
目的 集中力を養う 方法: セラピストが太鼓でリズムをモデリングして叩き、
全員でそのリズムをモデリング(真似して)手拍子で叩く。 - 5、ゲーム(ダルマさん転んだ)
-
目的: 俊敏な動きで自分の体を自在に動かす。 方法: ダルマさん転んだを全員で行う。 - 6、歌ってコミュニケーション
-
目的: コミュニケーションスキルのアップ。 方法: 2つのグループに分かれて歌の掛け合いをする。 使用曲例: 森のくまさん(日本語詞:馬場祥弘 アメリカ曲) - 7、一人で演奏
-
目的: 自信をつける 方法: 一人で自由に楽器を演奏する 使用曲例: 子どもの好きな曲を選曲。 - 8、終わりの歌
-
目的: クールダウンする。 方法: 気持ちを落ち着かせるゆっくりした曲を選曲し歌う。 使用曲例: 今日の日はさようなら(作詞作曲:金子詔一)
プログラムのポイント
普段のフラストレーションを解消するためには体を使ったプログラムにすると効果的です。また、集中力を養うためにはリズム模倣など1つの課題に絞るプログラムが良いでしょう。
3、まとめ
子どもの成長や発達を促す音楽療法には次の3つのポイントがあります。
- 子どもの特徴を理解する
普段の生活や学校などでの様子や行動の特徴など
できるだけ詳しく知ることが重要です。 - 個別目標を設定する
様々な特徴を理解したら
発達を促すための具体的目標を設定します。 - 「力を引き出す」ということを意識する
音楽療法は「子どもが持っている力を信じて
その力を引き出す」という意識に立って
セッションを行うことが大切です。
そして
個別目標に沿ったプログラムを組み立てて
セッションを実施することで子どもの成長や発達を促すことができます。